東京高等裁判所 昭和39年(行ケ)21号・昭39年(行ケ)22号 判決
原告 松浦喜久三
被告 有限会社松浦漬本舗
【理由】(一) 第一商標について
この商標の形状構成は別紙(一)に示す通り、二重の細線で横長方形輪廓を設け、この輪廓内に左横斜向きの鯨が波間から頭部および尾部を現わし、いわゆる潮を吹いている状態を示していると思われる図形を大きく描き、その鯨の上万に「美鶴松浦漬」の文字を楷書体で左横書し、また輪廓内左上部にはくちばしに大きな短冊をくわえ左方向へ飛んでいる鶴と思われる鳥の図形を現わし、その鳥の上方「美鶴松浦漬」の文字のうち「美」の文字の右方(左方の誤り)に破線で小円を抽き、その中には上方に左から「天下」、下方に左から「名物」、中心部に小さく「の」の文字を収めたものを配した構成である。
(二) 第二商標について
この商標の形状構成は別紙(二)に示す通り、「美鶴松浦」の漢字を縦書したものである。<中略>
(二) 原告は、本件審決が「松浦漬」についてこれを周知著名な標章であると認定したことを誤りである旨主張する。
そこで先ず、戦前の営業状態についてみるに、(乙号証―省略)の各記載に弁論の全趣旨を総合すれば、鯨の蕪骨の粕漬である「松浦漬」について、被告の前身である山下善市の個人営業時代の大正年間においてすでに各種団体から表彰をうけているほか、宮中へも献上しているばかりでなく、辞典類においても、「松浦漬」が名産として紹介されていることが認められ、戦後の営業状態についても、(乙号証―省略)の各記載によれば、これまた被告の前身である山下ツルの個人営業時代の昭和二六年には農林大臣賞を受け、昭和三〇年には被告の名義で和歌山県知事から表彰を受けており、さらに昭和三二年一一月二〇日発行の世界大百科大事典にも紹介されていることさらに、(乙号証―省略)の各記載によれば本件原告の各商標が登録されたのちにおいてではあるが、松浦漬が明治年代に創始された由緒ある名産として、辞典、雑誌、新聞あるいは単行本などに紹介されていることを認めることができる。
以上の事実によれば、本件第二商標についてその登録の出願のされた昭和二九年四月一二日および第一商標について、登録出願のされた昭和三二年一二月一八日においては、すでに、松浦漬が被告の営業にかかる商品鯨の蕪骨の粕漬の標章として広く世人に知られていた事実を認めるに足り、ほかにこれに反する資料は何もない。
この点に関する原告の主張も理由がない。
(三) 原告は、本件商標はいずれも「美鶴」の文字によつて「松浦」または「松浦漬」とは顕著な差異があるから出所の混同を生じない旨主張するけれども、前に認定したように、「松浦漬」を要部とする標章は本件二つの商標の登録出願当時、すでに、被告又はその前身である個人営業の商品「鯨の蕪骨の粕漬」に使用するものとして取引者または需要者間に周知著名であつたのであるから、「松浦」または「松浦漬」の文字を有する本件商標を原告がその指定商品に標章として使用するときは、世人をしてその商品があたかも被告の商品の姉妹品であるように、あるいは、その商品の出所が被告と何らかの関係があるように、思わせるおそれがあるものというべく、すなわち、商品の出所が被告と何らかの関係があるように思わせるおそれがあり、商品の出所について混同を生じさせるおそれが充分であるというべきである。
(四) 原告は、第二商標について、鯨の蕪驚骨の粕漬以外の商品についてまでその登録を無効とすべき理由はない旨主張するけれども、さきにみたように、第二商標についての指定商品は同じ類である旧第四五類に属する佃煮、漬物の罐詰その他他類に属しない食料品および加味品であるから、「松浦」の文字を有する第二商標を原告が鯨の蕪骨の粕漬以外の旧第四五類に属する商品に標章として使用するとしても、「松浦漬」の名が前認定のような程度に周知著名であるために、世人は、その商品がさきの鯨の蕪骨の粕漬の姉妹品として同じ製造元において製造され、あるいは同じ販売元から販売されるものと誤認するおそれが充分にあるものと考えるのを相当とするから、第二商標が旧商標法第二条第一項第一一号にいう「商品ノ誤認又ハ混同ヲ生セシムルノ虞アルモノ」に該当するものとして、これを全部無効とすべきものとした本件審決は正当であるといわなければならない。
(山下朝一 多田貞治 田倉整)